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平成31年(2019年)3月 南あわじ市長 守本 憲弘
最近、淡路島は、外国人旅行者や首都圏など遠方の観光客誘致にも力を入れています。実は、私自身は出不精で、純粋に旅行を楽しむ機会は多くないのですが、まずは、自分の記憶に残る旅を振り返ってみました。
始めに浮かんだのが、大学卒業前、当時流行っていたバックパックしょっての海外の旅。まだ社会主義だった東欧の国でのワンシーン。首都の美術館で、ある彫刻に感動し、思わず写真を撮りました。ところが、そこは撮影禁止だった様で、屈強な守衛に腕をつかまれ、事務所に連行されました。もしカメラを渡してフィルムを抜かれてしまうと、撮りためた貴重な写真が全部消えてしまう。言葉が通じない中、撮影禁止の表示が分かりづらかった(本当です)ことや、これ以上撮るつもりはないことを身振り手振りで必死に表現し、守衛に抵抗していました。すると、近くにいた事務員が別室に入り上司と相談したらしく、ドアから出てきて、黙認するからカメラを仕舞って帰れと逃がしてくれました。怖い思いをしましたが、懐かしい想い出です。
最近では、前職の東北経済産業局長時代に行った青森東岸の旅。不老不死温泉に入った後、鰺ヶ沢(あじがさわ)泊。津軽三味線を聞きつつ夕食を楽しんだ次の日、ブサかわ犬「わさお」君を見るために駅前の自転車レンタル店へ。女性の店員さんは困り顔で「これから雨降りますよ」と忠告。私が諦めないのを見て取ると、近くのお店に電話をかけ、雨合羽がないか聞いてくれました。結局ズボンはびしょ濡れになりましたが、目的を果たした達成感が残りました。途中の深浦で立ち寄った円覚寺(えんがくじ)では、住職さんが、「高田屋嘉兵衛がロシアに拿捕された際に弟の金兵衛が円覚寺に無事帰国の祈祷を依頼した手紙」など嘉兵衛ゆかりの品を見せてくれました。
あと忘れられないのが修学旅行と家族旅行。心に残る旅には、旅先での人との関わりが強く影響しているように思います。目の覚めるような景色も、感動を分け合う人がいると一層際立ちます。最近流行の体験ツアーも人とのふれあいが人気の秘密かなと思います。観光という言葉にある「光」とは、名勝や美味しい料理を仲立ちにして、人の心と心が弾け合って飛ぶ火花のようなものなのかも知れません。まさに、その時その場所だけの、「一期一会」です。淡路島が、様々な想いでこの地を訪れる人々の、たくさんの一期一会を支える観光地になってくれればと思います。